2021年6月16日水曜日

君の名前は「エレン」か

                      
 もう3カ月近く前のことだ。いわきで越冬したハクチョウたちが北へ帰ったあとも、小川町・三島地内の夏井川に1羽が残っていた。右の翼が異様に垂れている。けがをして飛べなくなったことは、長年、残留コハクチョウを見てきた経験からわかる。

夏井川渓谷に隠居がある。そこへ行くのに県道小野四倉線(途中まで国道399号と重複)を利用する。三島地内で夏井川と並走する。ここで毎週日曜日、残留コハクチョウの様子をうかがう。右岸そばの中洲にいることが多い。

上流と下流で岸辺のヤナギなどの伐採が行われ、土砂除去工事も進む。周囲がざわついていることもあって、残留コハクチョウの居場所がいつも気になる。

 6月13日の日曜日は、ふだんより1時間以上早く家を出た。三島地内には8時ごろに着いた。いつものように残留コハクチョウを探す。ん?姿が見えない。ゆっくり車を進めると、シルバーマークの軽乗用車が止まっていた。その先に、おばさんがいて、川を見下ろしている。ピンときた。直下に残留コハクチョウがいるのだ。

 おばさんの先に車を止めて川をのぞくと、図星だった。あの残留コハクチョウがいた=写真。道路から水面までは3メートル、いや、それ以上か。 

聞けばおばさんは毎朝夕、残留コハクチョウにえさ(玄米)をやっている。「どこから来るんですか」。おばさんは道路前方を指さす。近所だが歩いて来るには少し遠いのだろう。朝はいつもこの時間、つまり8時前にえさをやるのだそうだ。残留コハクチョウは呼ぶと対岸からやって来る。

道路直下の左岸は川底が平らな岩盤になっている。玄米が砂利にまぎれることもない。コハクチョウにとってはいいえさ場だ。

 カミサンとおばさんがあれこれしゃべっているのを聞いていて、「ん!」となった。なんと、おばさんは残留コハクチョウに名前を付けていたのだ。

私たちも、観察と記録を続けるには名前があった方がいい、というわけで、勝手に「右吉(うきち)」と呼ぶことにしていた。

ざっと20年前、平・平窪の夏井川にコハクチョウが1羽、やはりけがをして残留した。大水が出たとき、平・中神谷まで流された。左の翼を傷めていたので、白鳥を守る会の人たちや中神谷~塩地内で毎朝えさをやり続けた「白鳥おじさん」は「左助」と呼んで見守ってきた。

左助が呼び水になって、新川が合流する塩地内は夏井川三番目のハクチョウ越冬地になった。多いときには200羽以上がひしめく。

その後も塩地内には残留組が相次ぎ、「左吉」「左七」「さくら」と名付けられた。それにならって、三島の残留コハクチョウを「右吉」と名づけたのだった。

おばさんがつけた名前は「エレン」だ。外国(ロシア)生まれだから、片仮名にしたのか。

この日、たまたま1時間ほど早く三島に着いたのは、川前・いこいの里鬼ケ城へカッコウの鳴き声を聞きに行くためだった。キャンパーによれば、夜明けにカッコウが鳴いたので、飛来していることが確認できた。「白鳥おばさん」と出会えたのも、この早起きのおかげだった。

あとでエレンについて調べる。ギリシャ語の女性名ヘレンの英語形だという。ヘレネ、ヘレナもエレンの変形で、トルコではエレンは「聖人」を意味するのだとか。これは一本取られた。これからは「白鳥おばさん」に敬意を表して「エレン」と呼ぶことにしよう。

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