まずはチラシ=写真=から――。微魔女企画は、劇団こふく劇場(宮崎県)の永山智行さんによる書き下ろし戯曲「おかえり」を上演するために結成された。いわきを拠点に活動する演劇人が集い、稽古に励み、おととし(2019年)3月末、いわき駅前の「アートスペースもりたか屋」で初演された。「思いのほか反響がよかったので、冥土の土産に再演を決意」したそうだ。
5月29、30日の3回、いわきPITで「おかえり」が再演された。最後の公演を見た。2年前の拙ブログに今回受けた印象と同じことが書いてある。それを抜粋したあとに、再演の感想を書き足したいと思う。
――名前に「美」の付く3人(大森由美子・松本恵美子・渡辺里美)による「おかえり」が上演された。
3人のうち2人を知っている。1人は大学生の“孫”の母親。1人は、わが家を取次所にしている宅配鶏卵の利用者。市民演劇のおもしろさは、身近な人間が芝居をするところにある。
3人が演じるのは54歳の、高校時代の同級生。1人は娘と2人で暮らしている。1人は都会生活に区切りをつけて帰郷したばかり。残る1人は、家族とともに暮らしてきた義母を見送ろうとしている。50歳を過ぎた3人の女たちは、最後にどこへ帰ろうとするのか。
同級生の女子のほかに、男子の同級生、娘、ひげのじいさん、10歳のときの隣席の男の子など、3人で8人ほどの人物を兼ね、心の動きや状況を説明するナレーションも担当する。最後に、「家」「家族」「ぬくもり」という言葉が浮かび上がってきた。
会場は狭い。そのうえ、場面転換が早い。一人の人物造形だけでも大変なのに、男子の同級生になったり、娘になったり、じいさんになったりと、なかなか複雑だ。
アフターファイブにけいこを重ねた。水面下での、この努力があったからこそ、書き下ろし初演というぜいたくな味わいを得ることができた。
アフターファイブをそれぞれ自分の好きな表現活動に使う、そういう市民が多いまちは楽しい。文化とは本来、「暮らし方」のことだ。暮らしのなかに演劇があり、音楽がある。市民芸術のすそ野が広いまちに住んでいる心地よさ・おもしろさを、しみじみと感じた夜だった――。
以上が2年前の感想だが、今回は舞台を取り囲むように客席が設けられた。相撲にたとえるなら、土俵のぶつかり合いを砂かぶりで見ているような感じだ。力士ではないが、日ごろの稽古の成果を肌で知るような思いがあった。
セリフはほぼ「いわき語」。「~だっぺ」「~さ行く」が出てくるうえ、目の前で演じているので、あるシーンでは喫茶店の隣席から話し声が聞こえてくるような感覚になった。
娘が風呂で口ずさむ歌にはつい口の中で伴奏していた。テレサ・テンの「別れの予感」。テレサが大好きな同級生や台湾旅行のあれこれを思い出していた。
母と娘がカレーを食べるシーン。「カレー、おいしいね」には吹き出しそうになった。“孫”たちが来ると、カミサンがカレーをつくる。カレーをもりもり食べる“孫”たちの顔が浮かんだ。
2年前はどうだったか。演技をする人間とそれを見る観客の距離感が今回はゼロに等しかったのが、私には新鮮だった。
あいさつのチラシで松本さんが書いている。「『おかえり』との出会いが、みなさまにとって静かに自分を思うときであればいいなと思っています」。そうか、最後に帰るところは自分自身だったか。
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