2021年6月29日火曜日

これが菌根か

           
 梅雨になると、夏井川渓谷の隠居の庭にマメダンゴ(ツチグリ幼菌)が発生する。東日本大震災と原発事故後、庭の全面除染が行われた。表土を5センチはいで、新しい山砂が敷かれた。マメダンゴはもう採れない――あきらめていたが、どこかに菌糸が残っていたらしい。その後も発生を続け、「阿武隈の珍味」を楽しんでいる。

前はそろりそろりと歩きながら、靴底に神経を集中した。かすかに「プチッ」といったら、マメダンゴの外皮が靴の重みで破裂した証拠。あるいは異物の感覚があれば、地面を指で掘ってみる。小石のときもあるが、地中1~2センチのところからパチンコ玉大のマメダンゴが現れる。

おととし(2019年)からはフィールドカートに座り、三本熊手で土をガリガリやる「潮干狩り」スタイルに切り替えた。その方が、効率がいい。

今年も梅雨に入ったので、隠居の庭で「潮干狩り」をした。コケが地面を覆い、その間から傘がピンクの小さなキノコも生えている。ベニタケ科のドクベニタケだろうか。

コケの周辺を掘ったら、細い木の根が引っかかって地表に現れた。と同時に、木の根からわきに伸びた細根に引きずられてキノコが倒れた=写真上。髪の毛のような細根とキノコの根元がつながっている。これが菌根というやつか。それがわかるように撮影データを拡大してみた=写真下。

キノコは木を分解するだけではない。「陸上植物の約八割の植物種と共生関係を結んでいる。菌と植物の共生である菌根が地球の緑を支えている」(齋藤雅典編著『菌根の世界――菌と植物のきってもきれない関係』築地書館)。

典型が松の根などと共生するマツタケだろう。ベニタケ科のキノコもまたマツ科・ブナ科・カバノキ科・ヤナギ科などの木の根と共生するという。言い換えれば、ベニタケ科のキノコが生きていくには細根が必要(ウィキペディア)なのだ。

これは北海道大学大学院「森林資源生物学」ホームページからの受け売り。菌根の形成によって菌は植物から光合成産物をもらう。その見返りに、菌は土壌中から吸収した窒素・リン酸・カリウムなどを植物の根に供給する。根の水分吸収力や病原体への抵抗力を高めもする。

 すると、今度はどの木から根が伸びているのか、が気になりはじめた。隠居の庭の木はモミ、コバノトネリコ、ホオノキ、エゴノキ、ヤナギ、カエデなど。

西から東へと地表すれすれのところに細い根を伸ばしているので、それらのどれかの細根なのだろうが、根を傷つけずにやろうとすれば時間がいくらあっても足りない。菌根を意識するようになってから初めて、この目で確かめたことを良しとして「潮干狩り」を終えた。

 ドクベニタケだったら有毒、見つけても通り過ぎるだけのキノコだが、今回ばかりはドクベニタケ様々だった。

結局、マメダンゴは2個しか採れなかった。ツチグリも菌根菌だという。しかもベニタケ科同様、さまざまな木と共生する。すると、ツチグリもベニタケ科のキノコも菌根を介してつながっている、地中には壮大ないのちのネットワークが存在している、ということがいえないか。「菌根共生」を思考の軸にすえると、自然観が変わる。自然が、世界が違って見えてくる。

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