2021年8月19日木曜日

「白鳥おばさん」と話す

        
 いわき民報に「夕刊発磐城蘭土紀行」を連載している。拙ブログを活字化したものだが、このごろは活字になって残る怖さがよみがえり、頭にアルコールが入っていない日中、原稿を仕上げるようにしている。

 いわき市小川町三島地内の夏井川に、1羽、けがをして残留したコハクチョウがいる。町内のおばさんが毎朝夕、えさ(玄米)をやる。

 それを知ったのは6月中旬。日曜日の早朝、夏井川渓谷の隠居へ行くのに、いつもより1時間以上早く家を出て、8時ごろ三島に着いた。ガードレール越しに眼下の残留コハクチョウを見ているおばさんがいた。えさをやり終えたばかりだという。コハクチョウに「エレン」という名前も付けていた。カミサンがいろいろ話を聞いた。その顛末をブログに書き、「夕刊発――」に載った。

その後も、エレンが夏の暑い盛りに姿を消したこと、しばらくたってまた視界に戻ってきたことなどを書いた。

 きのう(8月18日)早朝、隠居へ出かけてキュウリを摘み、少し土いじりをして谷を出た。エレンのいる三島地内には7時15分ごろに着いた。

 川は増水して濁っている。隠居へ行く途中、左岸にエレンがいることを確かめた。帰りは久しぶりにエレンの写真を撮ろう、そう決めていた。

エレンのいる夏井川そば、山側の道端に、シルバーマークの軽乗用車が止まっている。その反対側、川岸にはガードレールに手をついて眼下の流れを見ているおばさん。

「白鳥おばさん」だ。この2カ月の様子を聞くいい機会でもある。近づいてあいさつする。と、振り向いて目が合った瞬間、「吉田さん?」という。ビックリしながら、「そうです」と答える。

なぜ、名前を知っているのか。おばさんが問わず語りに説明してくれた。小川町で夕刊を取っている知り合いがいる。「いかりがわ(碇川)商店」「私も知ってます」。その奥さんからエレンがらみの掲載紙が届いたのだそうだ。

「夕刊発――」は、タイトルと私の名前が一つのカットのなかに収まっている。それで名前を覚えたのだろう。

「写真を」というと断るので、「後ろ姿だけにします」。それで撮ったのがこれ=写真。足元には玄米がある。川が濁っているので、パンくずだけにしたという。

地域紙の記者は読者と同じ地域に住んでいる。顔の見える関係をベースにして、ニュースを発信している。つまり、地域紙はニュースペーパーであると同時に、コミュニティペーパーでもある。この両義性がめぐりめぐって、読者であるかどうかを抜きにして、私と白鳥おばさんをつないだ、といってもいい。

ソーシャルディスタンスを取りながらも、エレンを介したおばさんと私の距離はぐっと縮まった。

あの夏の酷暑が続いたときには、エレンは上流の竹やぶで暑さを避けていた。これは想像していた通りだった。「エレンちゃ~ん」。新聞で名前を知った人が声をかけることもあるという。

別れ際に、「奥さんによろしく」といわれる。これにも驚いた。なんだろう、この浮き浮きするような感覚は。

コロナですっかり憂鬱になっている気分がいっとき晴れて、「記者冥利」に尽きる、いや「早起きは三文の徳」とはこれか――そんなことを思うのだった。

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