7月最終週の台風8号は観測史上初めて、宮城県石巻市付近に上陸した。このこと自体にまず驚いた。
8号の進路はこんな具合だった。南東はるか沖の太平洋で生まれた8号と、先行する6号との間に寒冷低気圧があって、反時計回りに動いていた。これに沿って8号が南東から北西に進んだあと、銚子沖で北上に転じ、7月28日朝6時前、石巻付近に上陸して日本海上へ抜けた。
すると、今週(8月2~6日)の朝ドラ「おかえりモネ」のテーマが、台風の「東北初上陸」だった。2016年8月、台風が今度の8号と同様のコースで東北地方に接近する。「東北地方初上陸」の台風を前に、気象キャスター朝岡らのチームに緊張が走る――。ドラマと現実の、なんという一致か。これにも驚いた。
現在の「おかえりモネ」は、宮城県気仙沼市出身の若い女性が気象予報士の資格を取って上京し、気象会社に入っていろいろ経験を積んでいるところ――そんな感じだろうか。
今まで経験しなかった台風の東北上陸、それは気象変動を示す一つのシグナルにはちがいない。その宮城県初上陸が生々しいところに、ドラマで台風の「東北初上陸」が描写される。東北と台風の関係を考える、いいきっかけになった。
脚本があってのドラマだから、撮影はとっくに終わっている。「現実は小説より奇なり」ということばがある。これを実感するような、現実とドラマの偶然、いや必然だった。
名の知れた気象予報士のエッセーで、ドラマの台風にはモデルがあったことを知る。ドラマと同じ2016年8月、台風10号が岩手県大船渡市付近に上陸した。これが「東北初上陸」だった。
福島県にはまだ上陸していない。それはいいことなのだが、これからも上陸しないという保証はない。そんな心配が一方ではふくらむ。
それはそれとして、今度の朝ドラには脚本が現実に切り込んでくる力を感じる。台風8号の宮城県上陸を経験したことが、もちろん大きい。
「芸術は自然を模倣する」。アリストテレスのことばだそうだが、これをさらに掘り下げると、模倣から入って模倣を超える美が生まれる、ということになる。自然相手の今度の朝ドラからはそんなことまで考えさせられる。
実用面でもそうだ。「観天望気」、つまりは日常の暮らしに必要な技術=自然の読み解き。私は毎朝、この読み解きの訓練をしているような感覚になる。
同じ朝ドラでも、今回は「科学」の視点が入っている、天気の勉強にもなるにちがいない――そう思っていたところに、台風の「東北初上陸」が加わった。「教材」としても読めるのではないか。
実際、こんな「観天望気」がある。同じ地域に住む稲作農家の人たちは、日々、生産と生活に影響を与える気象を読もうとしている。平の街の西方、屏風のように連なる阿武隈高地にかかる雲の様子を見て、雨が来るかどうかを判断する。山が霞んでいると、間もなく雨が降ってくる。雨が降っていても、山並みが見えると、間もなくやむ、とわかる。
その延長で、このごろ毎日むくむく成長する入道雲=写真=を見ると、これはいわきの北、中通りから阿武隈にかかる雲だろう、といった推測がはたらくようになった。
0 件のコメント:
コメントを投稿