図書館のホームページで読みたい本を探す。あれば借りる。「貸出中」や「予約中」のときは、たまにチェックして本棚に戻るのを待つ。先日紹介した星野智幸の『植物忌』はそうして読んだ。
新型コロナウイルスの感染防止一斉行動が強化され、さらにいわき市の「まん延防止等重点措置」適用を受けて、図書館など公共施設の臨時休館が8月7~22日から、同31日まで9日間延長された。
その前に読む本をと5日夕方、ディーリア・オーエンズの『ザリガニの鳴くところ』を借りに行ったら、そこだけ空いている。
しばらく「貸出中」だった。前日に「貸出中」が消えているのを確認し、臨時休館中にじっくり読もうと考えたのはいいが、すぐ動かなかったのが裏目に出た。同じように「貸出中」が消えるのを待っていた人がいる。タッチの差でその人に借りられてしまった。
いわき市内5図書館の『ザリガニの鳴くところ』がずべて「貸出中」」になっている。人気の小説なのだろう。
では、それに代わるものを――。英米文学の同じコーナーで背表紙を眺めていたら、ポール・オースターの『ティンブクトゥ』が目に入った。
オーエンズの『ザリガニの鳴くところ』はラベルが「オエ」、『ティンブクトゥ」は「オス」。作家の名前を初めて知った。どんな内容かもわからないまま、タイトルと訳者・柴田元幸に引かれて借りた。
ティンブクトゥはトンブクトゥのことだった。トンブクトゥは西アフリカのマリ共和国内、ニジェール川の中流域にある都市で、西欧では「黄金郷」として知られる(ウィキペディア)。トンブクトゥはフランス語読み。英語ではティンブクトゥになる。
若いころ読んだ大岡信の詩(「地名論」)に「トンブクトゥ」が出てくる。「頓服」を連想させる言葉なので、それで覚えた。「水道管はうたえよ/お茶の水は流れて/鵠沼に溜り/荻窪に落ち/奥入瀬で輝け/サッポロ/バルパライソ/トンブクトゥは/耳の中で/雨垂れのように延びつづけよ/(以下略)」
小説の方は、アメリカの犬と飼い主の物語で、犬は飼い主のウィリーが亡くなったあと、ウィリーの言葉を思い出してティンブクトゥへ向かう。
ウィリーは詩人で、犬を連れて各地を放浪した。一緒に旅をするなかで、犬はウィリーの言葉を理解できるようになる。ティンブクトゥは「人が死んだら行く場所」で、ウィリーは「そこを『霊たちのオアシス』と呼び、またあるときは『この世界の地図が終わるところでティンブクトゥの地図がはじまる』と言った」。
ヨーロッパであれアメリカであれ、トンブクトゥ(ティンブクトゥ)は特別な場所らしい。
「地名論」というダジャレの詩の中で知った特別な響き、トンブクトゥ。そして、犬の視点で物語が展開する『ティンブクトゥ』。
本の帯が泣かせる。「犬のミスター・ボーンズは考えた。優しかったウィリーに再会するために、ティンブクトゥへ行こう」。読み終えたら解熱剤を頓服したような気分になった。
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