2021年8月2日月曜日

抜き足・差し足

                      
 夏井川渓谷の隠居へは決まったルートで行く。平・中神谷~上平窪地内は田んぼ道だ。神谷と平窪では必ず、ダイサギやアオサギに出合う。

 サギたちは、人間には敏感だ。車で近づいても、カラスより早く飛び立つ。一定の距離を保っていれば本能のままにとどまり、動き、えさをあさる。

 きのう(8月1日)の朝は珍しく、アオサギが田んぼ道を横断するのを目撃した。かなり手前で車を止めたのがよかったようだ。右側の田んぼのあぜ道から現れ、ゆっくりと歩きながら、左側の田んぼのあぜ道へ入ろうとするところでこちらに気づき、低く稲穂をかすめるように飛び立った。

 横断中のアオサギを、助手席のカミサンがパチリとやった=写真。飛び立つ直前の姿を私が撮った。

 あとで撮影データをパソコンに取り込み、拡大すると、カミサンの撮った写真がとてもおもしろい。写真に写っている足を見てほしい。抜き足・差し足ではないか。

 まずはネットで意味を確かめる。抜き足は足を物から抜くように上げて、爪先から静かに歩くこと、差し足は足を爪先からそっと下ろして歩くこと、とある。

 サギたちが川の浅瀬や水の入った田んぼで抜き足・差し足をしながら、えさの魚やカエル、サリガニなどを探しているのをよく見かける。バシャバシャ歩き回ったら、えさになる生きものたちはたちまち姿を消す。

じっと木の枝のようになって水中の様子をうかがっているときもある。絶えず、瞬間的に“植物”になりながら移動して、魚の目をごまかす。そのとき、水面下でやっているのが、この「抜き足・差し足」だったか――。

 ずいぶん優雅な足の動きだ。撮影データを見て連想したのは、軽々と重力を超えるようにして踊るバレエダンサーの、爪先立った姿。あるいは能・狂言・歌舞伎といった伝統芸能の世界の、やはり重力を感じさせないようなしぐさ――。

 田んぼ道を横切ったところで私が撮った写真では、足がベタッと地面についていた。これは抜き足・差し足ではなくて、べた足だ。

 なぜ道路を横断するときだけ抜き足・差し足だったのか。まさか路面がすでに熱していて、そうするしかなかった? にしてはジャンプするわけでもない。ゆっくり、のんびり動いていた。

 たまたまシャッターチャンスがそうだっただけなのだろう。抜き足のあと、べた足になり、それから別の足が差し足になる。

飛び立つときには両方がべた足でないと、地面を蹴って離陸する力が出せない。2枚目は偶然、わが身に危険をもたらす車に気づいて身構え、飛び立とうとする直前の姿を撮った、というわけだ。

テレビの番組で生きものの不思議なしぐさを見て、何度か驚いたことがある。後ろ足で走るエリマキトカゲ、一斉に立ち上がるミーアキャット、横っ飛びで移動するマダガスカル島のサルのベローシファカ……。それと同じくらいに、写真がとらえたアオサギの優雅な抜き足・差し足だった。

サギのこの足の動きを研究すると、バレエや体操もさらに磨きがかかるのではないか、なんて妄想するのは、オリンピックが開催中だからか。

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