書き出しの4行にクスッとなった。「イタリア北部ピエモンテ州の森を相棒の犬とひそかに夜通し歩き回り高級食材の白トリュフを探し出すおじいさんたち」。「ひそかに」と「夜通し」が、日本のマツタケハンターと同じではないか!
わが隠居のある夏井川渓谷はマツタケの産地でもある。点在する小集落には、マツタケ採りの名人がいる。自分の“シロ”はむろん、息子にも教えない。
季節になると、夜中に出かけて朝日が昇るころには家に戻っている――ほんとうかどうかはともかく、地元の人間と酒を酌み交わしているうちに、そんなことを教えられて仰天したものだった。
マツタケは最初からあきらめている。その代わり、隠居へ行けば毎回、キノコのことを考える。この冬は隠居の庭の隅っこに重ねられていた剪定枝からエノキタケが発生した。カミサンが偶然、採った=写真。
私のような素人は雑キノコを観察し、集落の住民の「マツタケ談」を記録するだけだ。それで記憶に残ったキーワードが「ひそかに」と「夜中に」だった。
トリュフハンターも秘密主義だと知ったのは、実はもう7年前、テレビのドキュメンタリー番組で、だった。
そのときのブログを要約する。――2014年11月20日のNHK「地球イチバン」はイタリアの白トリュフの話。新聞テレビ欄に「森に眠る白いダイヤを探せ!1個3800万円⁉夢も恋もかなう魔法のキノコここ掘れワンワン」とあった。
フランスでは雌豚を飼い慣らして黒トリュフを探す。イタリアでは同じく訓練した犬が白トリュフを探し当てる。日本のマツタケハンターは自分の五官だけで勝負する。共通しているのは、シロは「息子にも教えない、自分だけの秘密」ということだ。
マツタケも、コウタケも採ったことのない身には、トリュフ狩りはさらにその上をいく一攫千金の別世界の話だ。だからこそというべきか、その情熱、いや欲望と想像力の限りなさには舌を巻く。
テレビ番組からは、白トリュフの香りは「ニンニクや森の匂い」という珍妙なたとえが伝わってきた――。
一方のマツタケは、今や絶滅危惧種だ。前に「チコちゃんに叱られる!」が取り上げていた。「マツタケが高いのは、プロパンガスが普及したから」
高度経済成長時代に入る前、家庭の燃料は主に木炭・薪(まき)だった。松山では焚(た)きつけにするため、絶えず「落ち葉かき」が行われた。それで、マツタケが安定して生えた。
エネルギー革命で燃料が石炭から石油に代わると、プロパンガスが普及し、落ち葉かきの必要がなくなった。すると、山は富栄養化してマツタケが姿を消した。
知人は祖父と一緒に山に入り、マツタケのありかや通称地名を教わったという。イタリアやフランスのトリュフハンターはどうだろう、かわいい孫には教えるのかどうか。いわきでもこの映画が上映されるならぜひ見たい。
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