2022年3月18日金曜日

「雀のお宿」

        
 対の掛軸=写真=と知って、やはり親を呼ぶ雀の子だったと確信した。ひょうたんを利用した「雀のお宿」である。

 最初、床の間に飾られたのは左幅だけだった。ひもでつるされたひょうたんがある。ひょうたんは下のふくらみがカットされ、中に1羽、心細げな表情の雀がいる。落款(らっかん)はあるが、作者が誰かはわからない。

ひょうたんと雀を絵柄にした作品をネットで検索すると、戦前の京都画壇で活躍した日本画家竹内栖鳳の「すずめのお宿」があった。

こちらもひょうたんの下のふくらみに穴があいていて、そこから雀が1羽、顔をのぞかせている。稲穂らしい植物もひょうたんの穴に差し込まれている。

昔の西洋絵画が聖書の物語を主題にしていたように、この絵もなにかの物語を主題にしているのではないか。

ひょうたん、稲、雀――。これらをキーワードにして検索を続けると、神戸・禅昌寺の「すずめのお宿」が目に留まった。本堂前にひょうたんの「すずめのお宿」をつるしたお寺として有名だったらしい。

さらに、そのつながりで古典の「宇治拾遺物語」に、民間伝承の説話「雀の恩返し」があることを知る。

子どもが石を投げてけがをした雀をおばあさんが介抱し、元気になって飛び去ったあと、雀はひょうたんの種をおばあさんに持ってくる。

種を植えると大きな実がたくさん生(な)ったので、おばあさんはひょうたんを村人に分けてやった。

何個かを乾燥させたら、なかから続々と白米が出てくる。おばあさんはそれで大変な財産家になった(以下略)――。

もう片方、右幅が床の間に掛けられたのは3月16日。私が、左側の雀は子どもだといったのを、カミサンが覚えていた。どこから手に入れたかはわからないが、手元にある掛軸を探したら、右幅が出てきた。

左幅の子雀が鳴いて親を呼ぶ。右幅の2羽の親雀がひょうたんの巣をめがけて舞い降りる。対になることで全体の構成がわかり、左右が響き合うような関係になった。

対である証拠に、左側の絵と落款は左端に、右側の竹笹の絵と落款は右端に寄っている。ちなみに、「竹に雀」は取り合わせの良いことの例えで、日本画の画題でもあるそうだ。

ひょうたんの色は土色に近い。禅昌寺の関連写真に丹波立杭(たちくい)焼のひょうたんがあった。絵と同じように下のふくらみがスパッと切られている。

絵のひょうたんも陶製ではないか。最初はそう思ったが、立杭焼には厚みがある。絵のひょうたんは皮が薄い。比較すれば本物のひょうたんだとわかる。郷土民芸かどうかは不明だが、絵と同じ図柄の土人形もネットにアップされていた。

ひょうたんと雀は、ある意味では「雀の恩返し」を下敷きにした「雀のお宿」の定番だろう。であれば、創意も工夫もあまり必要がない。子雀の描き方が稚拙な感じを受けるのは、たぶんそのため。

ま、それはさておき、掛軸がもともとの対になったことで、背後にある物語も、雀の情愛も見えてきた。すると、初めての経験だが、掛軸そのものにも愛着がわいてきた。

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