2022年3月13日日曜日

白い猫

                      
 このところ毎日、わが家の庭に猫が現れる=写真。最初は野鳥のえさが目当てだったらしい。カミサンが鳥とは別に、猫にも残飯を分けてやるようになった。

 わが家と道路をはさんだ奥に故義伯父の家がある。この猫はそこにも現れる。近所の飼い猫らしく、そのへん一帯を縄張りにしているようだ。

 このトラとは別に、3月10日朝、義伯父の家の庭に白い猫が現れた。カミサンが姿を見せると、太った体をのっそり動かして家の裏の方へ消えた。翌11日朝、カミサンが行くと、庭の片隅に横たわっていた。

 耳にはV字の切れ込みがある。不妊・去勢手術が行われた「さくらねこ」だ。この猫もどこかで飼われていたのではないか、とカミサンはいう。

どうやら故義伯父の家の庭を死に場所と決めていたらしい。白い猫を飼っていた近所の知り合いを訪ねると、そこの猫はとっくに昇天していた。よりによって3月11日に息絶えるとは……。

11年前のあのとき、原発事故が起きた。えさをいっぱいおいて、飼い猫3匹を家に残して避難した。9日後に帰宅した。そのとき、老猫に「奇跡」が起きていた。当時のブログを抜粋する。

 ――わが家には猫が3匹いる。茶トラ2、ターキッシュアンゴラの雑種らしいのが1。その猫たちを残して、3月15日にいわきを離れた。

あとで脱出・帰還組の知人たちに確かめると、ほとんどが同じ15日に行動を起こしている。生存本能とでもいうべきものに突き動かされたのだろう。

3匹の猫のうち、古株の「チャー」(茶トラ)は老衰が始まっていた。後ろ足を引きずって歩く。排便もきちんとできなくなった。カミサンが毎日、点々と落ちているものをふき取った。

えさも、水も、寝床もあるとはいえ、チャーは衰弱して息絶え、ミイラ化しているのではないか。家から遠く離れた避難先でそんな懸念が膨らんだ。

ところがどうだ、9日後の23日、家に戻ると3匹とも元気な姿で現れた。チャーはミイラになるどころか、4本の足でちゃんと歩いている。下半身に力が戻り、排便もきちんとできるようになった。カミサンが歓声をあげた。

なぜチャーはよみがえったのだろう。奇跡だ、これは。人間がいなかったからか。少なくとも一つはそうだろう。

3・11から1カ月弱、犬や猫などペットに焦点を当てた報道が見られるようになった。ペットとともに暮らしてきた人々にとっては、ペットは家族そのものだ。ペットとの死別、生き別れ、再会……

被災地にはペットにまつわる物語も数多くある。海上を漂流していた犬が救助され、飼い主に引き取られたというニュースにも接した――。

白い猫の死からあのときのチャーがよみがえり、ウクライナのペットたちにも思いが飛んだ。チャーはその後、1年近く生き延びた。

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