2022年3月2日水曜日

フノリのみそ汁

                     
 春にしかみられない季節の味は体が覚えている。3月に入ったとたん、海藻のマツモが食べたくなった。早ければこの時期、行きつけの魚屋の冷蔵ケースに並ぶ。

 東日本大震災が起きた平成23(2011)年3月は、刺し身やマツモどころではなかった。日常の暮らしが戻ってきたその1年後。こんなことをブログに書いた(抜粋)。

 ――いわきのハマの早春の味といえば、マツモのみそ汁、そして酢みそあえ。ハマの食の1年の始まりだ。
 カツオ、サンマ、アンコウその他、季節ごとに展開されるハマの料理の豊かさに、マチの人間は、すべてを口にする機会がなくてもいわきに住む喜びを感じたものだった。

 いわき地域学會がいわき市の委託を受けて、平成7(1995)年に『いわき市伝統郷土食調査報告書』をまとめた。それが、食文化の豊穣を思う源になっている。

 4月に入ってすぐの日曜日、久しぶりに行きつけの魚屋を訪ねた(そのころ、カツオのない冬は足が遠のいた)。

もしかしてカツオが入ってないかと思ってのことだが、空振りだった。代わりに、小さなイカと三陸産のマツモを買った。マツモは早速、みそ汁にした。

ようやくだという、マツモが入ってきたのは。厳冬だからか。いや、違った。そもそもマツモは寒流系の海藻だ。寒さより、東日本大震災による地盤沈下が生育に影響したのだという。

『伝統郷土食調査報告書』には、マツモは冬から春によく繁殖する早春の出始めが美味磯のちょっと高い岩場に生息する――とある。いわゆる潮間帯、海に沈んだり空気に触れたりする、微妙な環境の海藻なのだろう。

いわきの場合だと、その潮間帯を含む磯が、つまり地盤がおよそ50センチは沈んだ。三陸はもっと沈んだのではないか。

「ちょっと高い岩場」が地盤沈下によって高くなくなった、つまり生息環境が狭くなった。繁殖量が減った。そういうことか。東日本大震災は、場所によっては岩場と潮とマツモの関係、つまり自然と自然の関係を変えた。――

それからもう10年。後輩がいろいろ持ってきてくれたなかにフノリがあった。マツモと同じようなところに生息する。豆腐とナメコのみそ汁に入れた=写真。マツモよりはコリッとした食感だった。

煮ると緑色に替わるが、湯がいた程度では褐色のままらしい。宴会のとき、褐色の海藻が刺し身のつまになっていることがある。もしかしたらフノリ? 

街なかの店で買ってきた、同じ海藻のアカモクも、別の日、みそ汁に入って出てきた。こちらは湯がいて細かく刻んであったらしく、マツモやフノリのような原形を残すものではなかった。

いわきの 『伝統郷土食調査報告書』には、マツモとヒジキしか出てこない。フノリやアカモクも食べていたとは思うのだが、どうなのだろう。

0 件のコメント: