2023年4月10日月曜日

イタリア、書店のふるさと

                             
 カミサンの高校の同級生が北イタリアに住んでいる。それもあって、アルプスの山里を舞台にした小説やノンフィクションをたまに読む。

 内田洋子著『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(文春文庫、2021年)=写真=は、その意味では突然、外から舞い込んできた。

 カミサンの茶飲み友達が買って読んだが、思っていた内容とは違っていたらしい。リサイクルでカミサンに回ってきた。読んだら面白かった。で、半ば押し付けるように「読むといいよ」という。

 読み始めたら引き込まれた。限界集落といってもいい、山奥の小集落モンテレッジォ。そこは「本とその露天商の故郷」だった。それをヴェネツィア在住の内田さんが現地取材を通して明らかにする。

 モンテレッジォはどこにある? ネットで検索するとアルプス山脈ではなく、イタリア半島を縦断するアペニン山脈の北部、「右足」の「ひざ下」あたり、リグリア海に面したラ・スペツィアから少し北へ入った山中にあった。

 その山塊の北方はポー川という大河がアルプスと並行して西から東へ流れる。ポー平原とかポー平野とかいわれるところに工業や農業の一大経済圏が広がる。

 イタリアといえばローマ、という短絡的な発想を超えて、ほんとうはポー川流域こそがイタリアの屋台骨なのかもしれない、という思いを強くする。

 流域のアルプス側(左岸域)にはミラノ、ベルガモ、ブレシア、ヴェローナなど、アペニン側(右岸域)にはアレッサンドリア、パルマ、マントヴァなどがある。上流域には工業都市のトリノがある。

 そういう地理的な背景を頭に入れておくと、『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』の理解が深まる。

 実は、最初読んだときにはよくわからず、地図を頭において2回目、3回目と読み返すうちに、少しずつだが旅する本屋の動きが見えてくるようになった。

 旅する本屋は南のローマへも行ったが、本は売れなかった。そこで、主に北のポー川流域の各都市へ散らばって、露天で本を売った。

 もともと「自給自足の暮らしに不足が出れば、男たちは北イタリアの農業地帯へ長期間、働きに行った」ところだ。

そこへ「夏のない年」(1816年)がきた。モンテレッジォの農業も大打撃を受ける。何かを売りに行かなければ――。「まず村人たちが籠に入れて担いだのは、聖人の祈祷入りの絵札と生活暦だった」

やがてそれから本の行商へと変わっていく。その結果、「村の行商人たちの歩いた先に、たくさんの書店が生まれた」

ヴェネツィアの古書店に出入りしているうちに、内田さんは店主の先祖がモンテレッジォ出身だと知り、その村に興味を抱く。そこから『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』の本が生まれた。

「海運業で栄えたヴェネツィアは、常に新しい知識の玄関だった。情報を集めて出版業が栄え、長らくヨーロッパの知的サロンとしての役割も担ってきた」(文庫版あとがき)

こうした土地柄も旅する本屋が生まれる要因だったのだろう。それ以上に、イタリア人自身がモンテレッジォをよく知らなかったということに驚く。

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