2023年4月29日土曜日

春の食菌

                     
 夏井川渓谷の隠居の庭は除染が済んだので、そこに発生するキノコや山菜は普通に採取する。

 とはいっても、福島県内では浜通りと中通りを中心に、野生キノコの出荷制限が続く。隠居の周辺は食菌の宝庫といってもいい。が、原発事故以来、森を巡る楽しみが消えた。

年に1、2回、対岸の「木守の滝」の前に立っても、その下流に続く遊歩道を行き来することはなくなった。代わりに、庭だけは丹念に見て回る。

 腐朽菌(アラゲキクラゲやヒラタケ、エノキタケ)が隠居の庭の枯れ木に発生する。生きた木と共生する菌根菌(アミガサタケやアカモミタケ)も地面に現れる。

 アミガサタケは、隠居の庭では4月下旬、シダレザクラの樹下に発生する。西日本ではもっと早いようだが、やはりここは東北の南端だ。

 今年(2023年)は異常に春が早かった。それに合わせてアミガサタケも――と、隠居へ行くたびに目を凝らしたが、発生はいつもの4月下旬だった。

 日曜日(4月23日)朝、隠居に着くと、真っ先に残花と新緑のシダレザクラの樹下に入った。腕を後ろに組んで地面を見つめる野良の宮沢賢治よろしく、草の生え始めた樹下を西から東へ、北から南へ、あるいはその逆をたどる。

 最初に歩いたときに4個を採った。2個は地面からニョキッと現れているのでわかった。それを摘んで足をずらすと、1個が転がっていた。草に隠れて見えなかったのを靴のかかとで倒したらしい。踏みつぶさずにすんでよかった。その草陰にもう1個が生えていた。

 草、といってもあらかたはスギナだが、それが15センチほどに伸びてきた。スギナが視線を遮るので、位置を何度も変えないと見落としてしまう。そうやって、残る1個を見つけた。

まずは水につけてごみと土を取る=写真上1。それをわが家に持ち帰り、バター炒めにしてもらった。欧米では春のキノコとして喜ばれる。それは日本でも同じ。こりこりして、くせもない。晩酌のおかずが一つ増えた。

同じころ、ハルシメジも発生する。こちらはもう何年も食べたことがない。その現物が、いわきキノコ同好会の仲間から届いた=写真上2。

 ハルシメジは梅や桜などのバラ科の植物と共生する。新しい図鑑では「ウメハルシメジ」という和名に切り替わっている、とネットにあった。

 「これって、ハルシメジ?」。渓谷の隠居の庭で春に発生したキノコを見て、そう思ったのは、もう何年前だろう。

 現物のハルシメジは知識を深める材料だ。まずは、毒キノコとどこが違うのかをチェックする。有毒のクサウラベニタケは柄が中空だが、ハルシメジはこれが充実している。柄を半分に切る。中が詰まっている。OK。それに、クサウラが出現するのは夏から秋だ。この二点から食菌のハルシメジと確認できた。そのあとは……。ともかくいい勉強になった。

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