3月31日付のいわき民報1面に面白い記事が載った=写真。福島高専ビジネスコミュニケーション学科4年生の村上紗彩さんが、詩人草野心平(1903~88年)の飲酒量をデータベース化し、集計・分析した。その研究発表が情報処理学会の全国大会で高い評価を得たという。
以前、日記から心平の酒の記述を抽出したことがある。平成22(2010)年8月のブログにその一端を書いた。まずはそれを再掲する。
――『草野心平日記』(全7巻)には「宿酔」の字があふれる。「宿酔」の連続だから、「五日酔い」にも「六日酔い」にもなる。たとえば、昭和39(1964)年11月26日「五日酔也」、翌27日「六日酔気分」と書く。このとき、心平は61歳。一般人なら定年退職をして、飲み方も静かになるころだ。
心平は違っていた。還暦を過ぎて飲み方がピークを迎える。70歳になろうとしている昭和48(1973)年3月3日には「ああ、深酒はすまい。昔は自分にとって一年とは百八十五日だった。それでもなんかノンビリしていた。宿酔の翌日はまるで駄目なので、ここ数日のようなからだの状態では、また元の百八十五日にもどってしまう」
宿酔の日は仕事にならない。だから、1年は実質185日。私も宿酔にはなるから、心平の一年の数え方は理解できる。とはいえ、1年の半分は宿酔というのはけた外れだ。いや、それが心平流、といえばいえるか。
川内村にある天山文庫は、その意味では酒まみれの都会から脱出して再生を図る格好の場所だった。
「川内に着いたばかりのころは足もとがふらついていたのが、帰京するころにはしっかりとした足どりになる」。心平に身近に接した村民の述懐である。
心平自身も、ある年の夏は2カ月近く滞在し、新詩集ができるほど詩を書き、校歌をつくり、文章を書いた。「自分としては頑張った方だと思ふ」と書く――。
心平日記は飲酒情報の宝庫だ。アナログな人間は「飲みっぷり」のすごさに「鉄の肝臓なのか」と舌を巻いて終わる。が、デジタルな世界に生きる村上さんはそれを基に、飲酒量を分析し、客観的なデータを得た。
記事によると、昭和51(1976)年5月6日から12月31日まで、ざっと8カ月間240日の日記を基にデータベース化した。
そこから総アルコール摂取量を算出し、さらに平均値を割り出して、1日当たり日本酒では3合(ビール大瓶なら2.5本、ウイスキーだと水割り6杯)に相当することを突き止めた。
心平は73歳。その年齢でなお、厚労省が推進する「節度ある適度な飲酒」のおよそ3倍の量を流し込んでいた。
心平と友人たちとの交流は、アルコール抜きでは論じられない。それを深く知るうえで客観的なデータが得られた。あらためてけた外れの詩人が、老人がいたのだという思いを強くする。
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