いつの間にか、茶の間に見慣れない大型本が置かれていた。タブロイドの新聞より一回り大きい。図書館にあるならわかるが、個人の家の茶の間にはなじまない。
タイトルは『スタンランの猫』。昭和56(1981)年、リブロポートから出版された。作者はテオフィール・アレクサンドル・スタンラン(1859~1923年)。中身は、北斎なら漫画に描いたような“猫百態”といえば近いか。京都のフランス文学者杉本秀太郎が日本版の序文を書いている。
たまたま金曜日(5月17日)夜、「チコちゃんに叱られる」を見たら、猫はなぜ「ニャー」と鳴くのか――をやっていた。答えは「そこに人がいるから」だと。穀物を食い荒らすネズミ対策のために、人間がそばに猫をおくようになった。すると長い年月の間に、子猫が親猫に甘えたり、食べ物をねだったりするときにやる「ニャー」が、今度は人間に対しても行われるようになった。「ネオテニー(幼形成熟)」と呼ぶそうだ。
それでわかった。家猫は私にも「ニャー」と鳴いた。ところが、今、庭にやって来る外猫は、えさをやるカミサンに「ニャー」といっても、私には沈黙したままだ。前は追い払っていたから、「ニャー」と鳴いてすりよってくるはずもない。猫もソンタクするのだ。
「チコちゃんの猫」の晩、カミサンがこんな本があると、変形本の間から『スタンランの猫』を取り出してテレビの前に置いた。焼酎に気を取られて本を手に取るところまではいかなかった。
翌朝、「チコちゃんに叱られる」が再放送された。なぜチコちゃんの番組だけ、前の晩と次の朝放送されるのか。金曜日に酒を飲んで見逃したサラリーマン対策か(サラリーマンではなくなったが、私も同じ理由で見逃したことがある)。
で、途中までまた見た。テレビの前には『スタンランの猫』、テレビのなかでは「チコちゃんの猫」。内と外に猫がいる。急いでパチリとやった=写真。
それではと、『スタンランの猫』を手にした。これは、新聞でメシを食ってきたための“職業病”と思ってもらうしかない。序文を読んでいると、スタンランは「1985年」生まれとあった。すごいな、まだ34歳か。待てよ、本は38年前に出ている。年号が合わない。いったい何年生まれだ。
ネットで検索すると、「1859年」生まれだった。中央の出版なのに、なんというミスだろう。本に直接、アカを入れるのははばかられたので、インデックスに「1859年」と書いて、そばに張った。あとで読む人間のために(たぶん孫が手に取ることを期待して)。
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