2019年8月21日水曜日

「今年はじゃんがらを見なかったねぇ」

「今年(2019年)は、じゃんがらを見ないで終わったねぇ」。月遅れ盆が明けると、カミサンがつぶやいた。一行が道路を歩いているところは見た=写真下。しかし、新盆家庭の庭で躍動する姿はお目にかかれなかった。
「じゃんがら念仏踊り」という伝統芸能がいわきにある。研究者によれば、じゃんがらが磐城地方に伝わったのは江戸時代初期。青年会が伝承し、新盆の家々を回って念仏を唱え、踊る現在の形になったのは、近代以降のこと。それ以前は老若男女が思い思いに輪をつくって唱え踊ったらしい。

いわき市は昭和41(1966)年10月、常磐地方14市町村が合併して誕生した。当時は日本一の広域都市だった。旧市町村の垣根が残っていて、なかなか一体化ができない――議会では、そんな議論が何年も続いた。ところが、「じゃんがら念仏踊り」の網をかぶせると。いわき市はすっぽり「じゃんがら文化圏」に入る。一体化できないどころか、市民は「じゃんがら」で一つになれる。

 その点では、じゃんがらの鉦の音は「いわきの鉦の音」であり、リズムは「いわきのリズム」、歌は「いわきの歌」になる。いわきで生まれ育った人間は母親の胎内にいるときから、じゃんがらの鉦の音とリズムと歌をゆりかごにして育つ。「今年はじゃんがらを見なかったねぇ」は、いわきの夏の“芯”に触れられなかったいわき人の寂しさを物語る。

 日曜日(8月18日)に、ホームステイをしているスペインのダニエル夫妻を、「キッズミュージアム2019in伝承郷」が開かれる暮らしの伝承郷に連れて行った。常設展示室の映像コーナーで、大型スクリーンに映るじゃんがら念仏踊りを見せた。これが、私ら夫婦にとって「今年見たじゃんがら」になった。

 いやいや、それで終わりではなかった。きのう(8月20日)の夜、夏井川流灯花火大会が開かれた。いわきの夏まつりの最後を飾るイベントだ。この「送り盆」をダニエルたちに見せたい、じゃんがら念仏踊りも奉納される、というわけで、まだ明るいうちに出かけた。
彼らにとってはたぶん、最初で最後の、生のじゃんがらだ。私らもこの夏、生を見るのは初めてだ。チャンカチャンカが始まる=写真上=と、2人は動画を撮り続けた。「いわきの夏といえば、じゃんがら」。くどいくらいにこれを客人に強調した。

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