2019年8月22日木曜日

初めは「北加伊道」

 月に1回やって来る車の移動図書館からカミサンが借りた本に、『チコちゃんに叱られる』(小学館、2019年)があった。NHKの同番組制作班によるブックレットだ。「人と別れるとき、なぜ手を振る?」「なぜ線香をあげる?」「乾杯のカチンってなに?」など、17項目について問答形式で解説している。細部は忘れたが、全部見た記憶がある。
 最後の17問「どうして北海道だけ『道』?」はじっくり読んだ。ざっと1カ月前の7月15日夜、同じNHKで北海道150年記念ドラマ「永遠のニシパ~北海道と名付けた男 松浦武四郎~」が放送された。そのドラマのシーンを重ね合わせながら。

いわきから北海道へ開拓農民として渡り、地元の更科源蔵らと交流した詩人がいる。猪狩満直(1898~1938年)。好間・菊竹山で開墾生活を送った吉野義也(三野混沌)・せい夫妻の盟友だ。

せいの作品集『洟をたらした神』に収められている「かなしいやつ」は、満直の思い出の記でもある。その注釈づくりの過程で、政府の北海道移民政策や移住後の満直一家の暮らしぶり、満直の理想とする農業のかたちなどを知った。

更科らと発行した同人誌に「北緯五十度」がある。北緯50度は樺太(現サハリン)の中央を横切る。先の敗戦まで、そのラインがロシアと日本の国境だった。平成28(2016)年8月、学生時代の仲間と南樺太を訪ね、宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」の発想を得たとされる白鳥湖や栄浜駅跡などを巡った。

賢治だけでなく、満直、混沌・せいのことを調べていると、樺太を含めた北の大地にも目がいく。その延長で松浦武四郎(現三重県松阪市出身、1818~88年)のドラマを見たのだった。

武四郎を演じたのは「嵐」の松本潤。幕末、蝦夷地を探検し、明治2(1869)年、明治政府の開拓判官となり、政府の要請で新しい地名案=千島道・海北道・東北道・北加伊道(ほっかいどう)・海島道・日高見道の六つ=を出す。そのときの会議の様子がこれ=写真。

「チコちゃん」の本のなかで松浦武四郎記念館(松阪市)の学芸員が語っている。「加伊」はアイヌ語で「この国に生まれた者」という意味。すなわち、「北加伊道」は「アイヌが暮らしてきた北の大地」で、武四郎は「北加伊道」(のちの北海道)に、アイヌへの深い思いを込めた。

「道」はそれこそ「でっかいどう」の「どう」だ。北海道大学の教授によると、道(どう)は道(みち)であると同時に、広い範囲を表す言葉でもある。「五畿七道」プラス北海道で、政府には「五畿八道」のイメージがあった。これも「かなしいやつ」の注釈に加える。

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