茶の間で仕事をしていると、庭の方からスズメの鳴き声がする。「チュッチュ、チュッチュ」「チュッチュ、チュッチュ」と繰り返し鳴いている。
音源を探る。上から降ってくるように聞こえたが、ひさしの上にはいない。地面はどうか。生け垣の根元にいた。くちばしが黄色くて尾羽が短い=写真。成鳥よりは体が一回り小さいから、子スズメだ。親を呼んでいるのだ。
前に、カミサンが「スズメが家の屋根の下に入っていった」といっていた。軒下の空気穴が出入り口らしい。その奥に巣があるのだろう。そこから落っこちた?
ひなを見たカミサンが、俄然、母性本能を刺激された。「巣から落ちたのよ、巣に戻してやらなくては」「放っておくしかない」「どうしてそうなの、めんどうくさいからそういうんだわ」
いちおう野鳥のことは「耳学問」ながら、頭には入っている。みだりにひなを助けるようなことはしない――これが鉄則。しかし、それだけでは納得してもらえない。まずは自分の知識を整理するために、ネットで調べた。日本野鳥の会の「Q&A」なら間違いない。
最初は、私も巣から落ちたひなのように思っていたが、どうやら巣立ちびならしい。「どうしてひなが地面にいるのか」に対する答えは、「野鳥のひなの多くは、卵からかえって羽が生えそろうとすぐに巣立つので、巣から飛び出す段階でうまく飛べずに落ちるのもいる。でも、けがをしていなければ、親鳥が給餌(きゅうじ)や誘導をするうちに、少しずつ飛べるようになると考えられる」。
「ひなを見つけたらどうしたらいいのか」に対しても、「巣立ち直後のひなはあまり動かない。親鳥は人がひなの近くにいると警戒してやって来られない。ひなに手を出して親子を引き離すと『誘拐』になるので、その場を去る方がいい」。要するに、そっと見守ってあげる、ということだろう。
庭には猫も来る。カラスも来る。彼らの餌食になってしまうかもしれない。それでも、冷たいようだが放っておいたら、しばらくして鳴き声がやんだ。やられたか? いや、親鳥と合流したのだ、きっと。「Q&A」を読んでからは、そう思えるようになった。
スズメで驚いたことが前にもあった。台所で水を飲もうとしたら、かすかな羽ばたき音がする。天井を見ると、スズメがいた。出口を探して、何度も行ったり来たりしている。
いい天気になったので(やはり5月だったか)、茶の間のガラス戸を開けておいた。そこから入り込んだのだろう。台所まで進入したのはいいが、ただただ北側の食器棚から南側のガラス戸へと、飛んでは舞い戻ることを繰り返している。
台所のカーテンとガラス戸を開けて逃げ道を用意してやるが、そばに人間が立っているものだから、怖くて近寄らない。そのうち、やっと茶の間に気づいてそちらから大空へと消えた。
人間と野鳥では生きている世界が違う。人間の愛情が野鳥の親子にはマイナスに作用することもある。スズメのことはスズメに聞くしかない。放っておいて正解だったのだと、あらためて自分に言い聞かせた。
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