2021年5月5日水曜日

独活の糠漬け

        
 糠床を冬眠から覚ましたのは4月10日ごろ。いつもより半月早かった。間もなく糠漬け再開1カ月になる。毎朝、食事の前に糠床をかきまわす。

冬、食塩のふとんをかぶせて空気を遮断していたので、糠床には塩分がしみこんでいる。新しい糠を足し、肉じゃがの残り汁などを加えて「こく」を出したいのだが、なじむまでにはまだ時間がかかりそうだ。今のところ塩分過剰を頭において、糠床に入れた野菜を早めに取り出すようにしている。

 冷蔵庫に忘れられて水分が飛んだ大根があった。捨て漬けのつもりで糠床に入れた。あとで取り出すと、たくあんのようにしんなりしている。少しカットして食べたら、弾力があっていい歯ごたえだった。捨てずに全部食べた。

 以来、大根は買って来ると、10センチくらいの長さに切って縦に四つ割りにし、干してから漬けるようにしている。キュウリは逆だ。日を置くと水分が飛んで内部が綿のように白くなる。こうなると漬けてもおいしくない。キュウリは買って来たらすぐ漬ける。

キュウリは最初、一昼夜、つまり24時間漬けた。少ししょっぱかった。次に、朝に漬けて晩に取り出す「半日漬け」にしたら、ご飯のおかずにちょうど合っていた。

キュウリはさっさっと、大根はゆっくりと――。真逆の二つをセットで考える癖が付けば、糠漬けの幅が広がるかもしれない。

 コロナ禍の巣ごもり要請が続く。この10年余は在宅ワークの身。要請と現実が一致するとはいえ、図書館が休館し、予定されていた会議や行事が中止・延期になって外出する機会が減った。

 その分、家の中でできることを見つけないと、ストレスがたまる。この時期は、やはり糠漬け。なにを漬けるか、あれこれ考えるだけでも気がまぎれる。

 コロナ問題が起きた去年(2020年)もこの時期、同じことを考えて失敗したものがある。

池波正太郎『鬼平犯科帳』の「盗賊婚礼」に<独活(うど)の糠漬け>が出てくる。「清水門外、役宅の寝間で長谷川平蔵は久栄に肩をもみほぐしてもらいながら/『ああ極楽、極楽!』/独活のぬか漬けを肴に寝酒をやっていた」。これを食べたくて何度かつくってみたが、味がしみこむまでにはいかなかった。

道の駅よつくら港へ買い物に行ったら、独活を売っていた。今年こそリベンジだ。糠漬け用のキュウリ、大根のほかに、独活を衝動買いした。

ネットで検索したら、失敗の原因がわかった。皮をむいて(切り落として)、スティック状にして漬ける、とあった。今までは、スーパーで売っているものを、5センチほどの長さに切ってそのまま糠床に入れたから、独活の水分と糠床の塩分の浸透圧がうまくいかなかったのだ。

 今年は正しいやり方に従って皮をむき、水にさらしてアクを抜いたあと=写真上1、水分をふきとって糠床に入れた。初回は半日漬けにした。漬かり過ぎのようだったので、2回目は昼前に漬けて、晩に取り出したら、酒の肴にぴったりだった=写真上2(キュウリも晩酌用に浅漬かりにした)。

漬けすぎると独活の香りが消える。独特のえぐみも感じられなくなる。ほのかなえぐみと香りが口中に広がった。これを鬼平は好んだのか。

最初に『鬼平犯科帳』を読んでからどのくらいたつだろう。20年、いや30年はたっている。そのくらいの時間をかけて、やっと「極楽」に近い心境になった。むいた皮はきんぴらになって出た。これも乙な味だった。

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