2021年10月22日金曜日

ドラマとはいえ

                      
 朝ドラ「おかえりモネ」は10月29日で終わる。その最終週一歩手前、10月第4週は、モネの同級生の父親が津波で行方不明になった妻の死亡届に判を押すシーンに、ジーンときた。

 震災から10年。東北の太平洋岸を襲った大津波で、岩手・宮城・福島の3県を中心に、1万8500人近い死者・行方不明者が出た。災害関連死を含めると約2万2000人が犠牲になった。警察は今も月命日になると、沿岸部を捜索する。行方不明は生死不明、肉親にとっても、警察にとっても「現在進行形」のままだ。

 妻を波にさらわれた夫の、この10年の葛藤がにじみ出ていた。「元に戻るのがいいことだとは思えない。どんなに思っても、どんなに力を尽くしても、元に戻らないものがある」。妻は帰っては来ない。それでも次に進まないといけない。その区切りが死亡届だった。

 いわきで「震災詩」を書き続けている詩人がいる。木村孝夫さん。木村さんとは震災後、シャプラニール=市民による海外協力の会が開設・運営した交流スペース「ぶらっと」で出会った。

 詩人としては前から知っていたが、生身の人間として接するのは初めてだった。クリスチャンであることはなんとなく承知していた。その木村さんから、本人を取材した日本キリスト教団出版局発行の新聞「こころの友」が届いた=写真。木村さんの考え、震災詩を書き続けている原点のようなものがわかった。

 40代後半でクリスチャンになった。同い年の奥さんがクリスチャンだった。奥さんはその後発症し、10年の闘病を経て亡くなった。2人の子どもも木村さんと同時期に洗礼を受け、今は牧師をしている。

木村さんは子どものころから平の薄磯海岸に親しんできた。震災後も足しげく通った。原発避難者を含む被災者に思いを寄せ、その内面を掬(すく)いとるような詩を書き続けている。モネの同級生の父親の葛藤に、木村さんの震災詩が重なった。

いわき市の災害対策本部は10年余たった今も「週報」を出している。最新の週報(10月13日現在)によれば、いわき市内の人的被害は、死者が468人、不明者がゼロ。ただし死者の内訳は直接死293人、関連死138人、死亡認定の行方不明者37人となっている。

死者もまた肉親や友人たちの心の中に生きている。行方不明者であればなおさら強く胸に生きている。「おかえりモネ」の同級生の父親のように、行方不明の肉親に区切りをつけられない人間がたぶん今もあちこちにいる。

 気仙沼を舞台にした震災10年のドラマは、被災者の心の軌跡に焦点を当てたものだった。前半は気象問題に引き込まれたが、後半はそれぞれの10年が浮き彫りになっていった。モネの父親が漁師になると決心したのも、そのひとつだろう。残るはモネと菅波先生の関係だけ。ハッピーエンドで大団円か。

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