2021年10月28日木曜日

シソの実と米麹

        
 夏井川渓谷の幹線道路は一つ、県道小野四倉線。渓流の崖を縫って伸びる。隠居から街へ戻るために車を走らせていると、ある集落の道端に車を止めて地面を見ている女性がいた。後ろ姿が渓谷の別の集落に住む友人に似ている。車を止めて近づくと、彼女だった。

 地面にたくさんどんぐりが落ちている。「カヤの実」だという。「イヌガヤもある」。カヤとイヌガヤ、ほかにつながるものがなにかあったような……。

何日かたって思い出した。モミ。モミとカヤの違いは針のようにとがった葉先の形状。二つに裂けているのがモミ、カヤはとがったままだ。

コケの研究で博士号をとった元高校教諭を講師に、仲間が定期的に「山学校」を開いた。森で教えられたモミとカヤの違いが記憶の底から浮かび上がってきた。講師は植物のインタープリター(自然案内人)だった。

友人も自然観察会などで森の案内人を務める。つまりはインタープリターだ。料理にも詳しい。

この日、カミサンが隠居にある菜園からシソの実を摘んだ。「いっぱいあるので、どう?」。彼女もとっくに自宅の菜園で同じことをしている。「シソの実は米麹(こめこうじ)と一緒に漬けるといい」という。

家庭菜園を始めたばかりのころ、多品種・少量栽培を心がけた。シソも、青ジソだけでなく、梅干し用に赤ジソの苗を買って植えた。すると、それから毎年、どちらもこぼれ種が発芽し、秋には花を咲かせて実をつける。

それをこのへんの方言で「ふっつぇ」という。もったいないので、毎年、「ふっつぇシソ」の葉を摘み、実が生(な)れば回収して塩漬けにする。とはいっても、夫婦で食べる量は限られる。前年の塩漬けシソが残っていたときもある。

シソの実と米麹――とは、いい話を聞いた。新しい味を楽しめる。スーパーへ買い物に行ったら、たまたま食品売り場に袋入りの米麹があった。カミサンがさっそく手に入れた。

間もなくその漬物が出た=写真。ご飯にのせる。シソの香りと米のうまみ・甘みが絡み合って、なかなかいい感じに仕上がっていた。一種のふりかけだ。湯豆腐なんかにもチョンとのせるといいかもしれない。

つくり方はいたって簡単。シソの実に米麹を加えて混ぜ、醤油を浸しただけだという。それを冷蔵庫で保管している。

ネットにアップされている「シソの実麹」はずいぶん念入りだ。シソの実を瓶に入れ、醤油をヒタヒタになるまで加える、麹をほぐして瓶に入れる、それから鷹の爪・昆布を入れ、カビ防止に焼酎を加える――。

そこまでしなくても、醤油と米麹だけで味に奥行きが出る。去年(2020年)まではただの塩漬けだったが、米麹に切り替えたことで俄然、新しい食べ物になった。これは、スーパーなどでは買えない。それぞれに混ぜるものを工夫すればその家独特の味になる。

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