2022年8月10日水曜日

ウクライナの川のことなど

            
 ロシアがウクライナに侵攻して1カ月近くたった3月17日、拙ブログに次のようなことを書いた。

――全国紙の日曜コラムを読んでいたら、ロシアと国境を接するウクライナ北東端の村人の話が出てきた。

国境の向こうに松林があって、良質のキノコがたくさん採れる。「ソ連が崩壊し、ウクライナとロシアがともに独立した後も、村人は時々勝手に越境してキノコ狩りをしていた」

さらに、村人は「ウクライナ人としての誇りを持つ一方で、ロシア語を母語として話し、ロシアに親近感も抱いているように見えた」――。

その後、ロシアの現代文学も含めて、ウクライナ関連の本を何冊か読んだ。アンドレイ・クルコフ(1961年~)/吉岡ゆき訳の『ウクライナ日記――国民的作家が綴った祖国激動の155日』(集英社、2015年)=写真=からは、ロシアとの関係で複雑に揺れ動くウクライナ人の感情が読み取れた。

クルコフはロシアで生まれ、幼いときに両親とともにキエフに移り住んだ。民族的にはロシア人だが、今はウクライナ国民だという。

キエフも20世紀初頭は市民の半分以上がロシア人だった。今世紀初めの調査では、キエフ市民の8割以上が民族的なウクライナ人を自認するが、母語がウクライナ語と答えた人は7割程度だったそうだ。クルコフもまたロシア語で本を書く。

3月の時点ではまだ、ウクライナもロシアも「キノコ好きの東スラブ人」という大きなくくりでしか見ることができなかった。

ウクライナ東部にはロシア人が移り住んでいる。ロシアに親近感を抱いているのはそのため。これに対して、ウクライナ西部の住民は「反ロシア」色が強い。その程度の知識だった。今もそれは変わらない。

しかし、現実はいろいろ込み入っている。複雑な事象を複雑なままに受け止め、単純化しないこと。そうすることで、冒頭のキノコ狩りのエピソードもまた、いつかは背景や歴史的な経過が見えてくる。

ということで、まずはウクライナの自然から国の特徴をつかむことにした。ウクライナのほぼ中央をドニエプル川が流れている。水源はロシアのヴァルダイ丘陵。ロシアからベラルーシを抜け、ウクライナの中央部を北から南に流れて黒海に注ぐ。全長2285キロという、欧州第三の大河だ。

キエフの北に位置するチェルノブイリ原発はこの川の支流そば、南ウクライナにある欧州最大のザボリージャ原発はこの川のそばにある。

ウクライナは国土の半分が平野だという。なかでも中央部と南部の平野は肥沃な黒土に覆われ、小麦などの耕作地が広がる。昔から「欧州の穀倉地帯」とか「欧州のパンかご」とかいわれてきたのは、ドニエプル川があるからだ。ウクライナの国旗は青空の下に広がる麦畑を表している。

その平原の村に生息し、あるいは渡って来る鳥に、カッコウやツバメ、ヤツガシラ、小夜鳴き鳥(ナイチンゲール)、キジバトなどがいる。

前にも紹介した『現代ウクライナ短編集』のなかのカテリーナ・モートリチ「天空の神秘の彼方に」に登場する。こういったところからウクライナの自然と人間の営みが見えてくる。

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