日本人の高2少女を主人公に、ロシアのウクライナ侵攻を題材にした小説がある。松岡圭祐『ウクライナにいたら戦争が始まった』(角川書店、2022年)=写真。
図書館の新着図書コーナーにあったので、借りて読んだ。ロシアの侵略直前、そして直後の状況を生々しく描いている。
少女は瀬里琉唯(せり・るい)。福島県南相馬市で暮らしていた。中2の妹(梨央奈=りおな)がいる。
父親は電力会社に勤務している。ウクライナのチェルノブイリ博物館で福島第一原発事故の企画展示が行われており、その担当の一人として現地に長期出張中だ。
姉妹は2022年の3学期だけ私費留学をすることになり、母親とともに1月前半、ウクライナへ渡った。
首都キエフの郊外、ブチャ市に父親の住まいがある。そこで暮らし始めて間もなく、ロシアが仕掛けた戦争に巻き込まれる。
琉唯は東日本大震災がおきたとき、6歳だった。妹は2歳。避難所で押し寄せる津波を目撃している。それから11年後。今度は空爆や地上戦、戦争避難を体験する。
どこかの日本人ではない、浜通りの少女だ。原発も絡むとなれば、ヒトゴトではない。ぐっと身近な人間の物語に変わる。避難するのに車のガソリンがない、といったシーンでは、1Fの事故が思い浮かんだ。
二度読み返し、三度目に一日単位のドキュメントとして整理してみた。小説自体、時系列で進む。2月27日のブチャの戦いが小説のヤマ場になっていることがわかる。
戦争へは、こんな経過をたどる。1月24日:スクールバスが交差点の手前で急停止する。なにかと思ったら、装甲兵員輸送車両が横断して行った。
2月11日:午前中で学校の授業が終わる。同16日:午前の便で退避するため、空港で搭乗手続きをすると、妹のコロナ陽性(疑い)が判明、自宅へ戻らざるを得なくなる。
そして、2月23日:ウクライナ全土に非常事態宣言が出される。同24日:ブチャ市が空と陸から攻撃される。
さらに激しい攻撃が行われるのが2月27日。その描写が事細かに続く。「ほんの一秒のできごとだった。空に稲光のごとく閃光(せんこう)が走った。落雷も同然の轟音が耳をつんざく。赤煉瓦の家の屋根が吹き飛ぶ瞬間を、わたしはまのあたりにした。瓦が粉々に飛び散り、熱風が押し寄せてくる。薬品のような強烈な異臭が鼻をついた」
路上ではロシア兵が容赦なく銃撃を続ける。「防寒着姿の市民が次々と倒れていく。子連れだろうと銃弾が見舞われた。人体に被弾するたび血飛沫があがる」。さらに、略奪、殺戮が繰り返される。
琉唯たちも戦いの混乱の中で一時、離散を経験する。一家を含め、パスポートを持たない外国人が捕虜として大型バスに乗せられる。バスは西の国境のマチ、リヴィウに着く。ロシアへ向かうところを、いつの間にかウクライナ兵が乗っ取って救出したのだった。
前書きに「状況と日時、発生場所に関し、現在までの情報を可能な限り網羅し、帰国者の証言などを併せ、できるだけ正確を期した」とある。臨場感がすごい。
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