2022年8月19日金曜日

カメムシタケ

 知人がある集まりの場にカメムシタケを持って来た=写真。家の庭の近くで見つけたという。どうやら毎年発生するらしい。

 カメムシタケは冬虫夏草の一種だ。カメムシを母体にしたキノコといってもいい。キノコ自体を探しに行かなくなって久しい。そんなときに冬虫夏草が向こうからやって来た。久しぶりに目の保養になった。

 ネットにアップされている研究機関の解説によると、菌が生きたカメムシの皮膚に感染し、血液の中で増殖する。宿主(しゅくしゅ=カメムシ)が死ぬと体外に菌糸を伸ばして子実体をつくる。夏から秋によく見られる。

 この「死ぬ」という表現はちょっとやさしすぎる。より正確に言えば、死を待つのではなく、絶好のタイミングで宿主の命を奪う、といった方が正しいようだ。

このため、多くのキノコが植物と「共生」関係を持つ中、冬虫夏草は宿主から一方的に栄養を奪うだけの関係で、「殺生(さっせい)」と呼ばれる。

いわき駅の北方に石森山がある。林内に遊歩道が張り巡らされている。40代のころは、休日と平日の昼休みを利用して年に100回近く、この遊歩道を巡り歩いたものだ。

最初は野鳥、次いで野草、そしてキノコと、観察する対象を広げていった。キノコは冬も夏も、春も秋も発生する。その意味では、同山は1年を通して菌類を観察するには絶好の場所だ。

ある年の秋、小さな池のそばでヤンマタケを見つけた。これも冬虫夏草の一種だ。ナツアカネだった。水辺の小枝に止まったところで内部に潜んでいた菌が電撃的に宿主の息の根を止めた。つまり、トンボは今しがた枝に止まった状態で、節々から子実体を出していた。

その後、夏井川渓谷の隠居へ通うになると、食菌だけでなく、ヤンマタケその他の冬虫夏草も探すようになった。渓谷は虫の王国。“冬虫夏草”もいっぱいある。

冬虫夏草に詳しい某新聞社の支局長がいた。私と同年齢で。いわきで定年を迎え、そのままいわきの山里で第二の人生に入った。会うと、いつも菌類の話になった。それで教えられたことがある。
 「夏井川渓谷は冬虫夏草の宝庫だと思うよ。いろんな昆虫が生きてたときの姿のままで死んでる、節々が白くなって。この前はカマキリがそうだった」

すると、支局長氏は「ン?」といった表情になって、「それはムシカビじゃないのかな」という。冬虫夏草とムシカビの違いは菌類でいう「柄」があるかないか、だという。
 そういえば隠居の庭で見たカマキリには柄がなかった。木の幹に止まったまま死んでいたゴマダラカミキリにも柄はなかった。

   夏井川渓谷にある隠居の庭では、カマキリのほかに、イナゴ、ガなどのムシカビも見つかっている。唯一、トンボだけは節から「柄」が出ていたから、冬虫夏草のヤンマタケ(不完全型)だった。 

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