いわき市の中心市街地・平の東はずれを夏井川が流れる。対岸は旧神谷(かべや)村。「平神(へいしん)橋」が両地区をつなぐ。
夏井川はわがふるさとの大滝根山南麓から発する。今住んでいるいわきとふるさとをつなぐ川――と知ったのは、30歳になるかならないかのころだった
以来、現役時代は朝夕、平神橋を渡るたびに上・下流を“チラ見”した。それだけではない。今は街からの帰り、平神橋の東詰めを右折して夏井川の堤防に出る。ちょっと気取っていえば、川と人間、川と動植物の関係を「観察」のテーマにしている。
令和元(2019)年10月12~13日、台風19号がいわき市を直撃し、好間川・新川を含む夏井川水系に大きな被害をもたらした。
その復旧・防災工事が小川町から下流域で進められている。それで、平野部の夏井川は河川敷の立木が消え、土砂が除去されて、狭い川が広く感じられるようになった。
平神橋のすぐ上流にはJR常磐線の鉄橋が架かる。鉄橋から上流はしばらくそのままだった。そこでも土砂除去工事が始まった。
3月中旬だからちょっと前のことだ。平神橋を渡るとき、いつものように上・下流を“チラ見”したら、鉄橋の上流側に「レンガ造りの階段」状のものが見えた。
浸食・運搬・堆積の「河川の3作用」が頭に浮かんだ。岩石が侵食されて岩くずになり、土砂とともに流され、流れがゆるやかになった下流にそれらが堆積する。
夏井川の堤防から土砂除去工事を眺めて、河川敷にたまる土砂の量はハンパではないことを痛感していた。
たとえば、中神谷の調練場には大水のたびに土砂が堆積する。令和元年東日本台風では、堤防寄りのサイクリングロードが、部分的に1メートル前後土砂で埋まった。1回でそうなるのだから、何十年もの間に堆積した土砂の量は推して知るべし、だろう。
「レンガ造りの階段」状のものが何なのかは、3月20日付のいわき民報でわかった。常磐炭田史研究会の野木和夫会長が「旧平字手掴にあった平火力発電所のこと」と題して寄稿し、火発の取水口が出現したことを伝えた=写真。これだった。
同地には昭和52(1977)年まで、常磐炭礦の平火力発電所があった。もちろん、炭鉱の石炭掘削用である。
広大な敷地の一角には同炭礦の子会社である常磐紙業の工場が稼働していた.野木さんはこの会社に入社した――そんなことがつづられている。
発電所の従業員と話すこともあった。「発電所は夏井川から取水しているが、取水口の金網にウナギが何匹も何匹も、べだーっと張っ付いて困っちまう」
夏川渓谷の住民から、対岸にある水力発電所の導水路でウナギやカニを捕ったという話を聞いたことがある。取水口の維持管理には苦労しながらも、ウナギたちはいい食材になったのではないか。
川をウオッチングしている身としては、あらためて河川の3作用の威力を実感するとともに、30年後、50年後に岸辺がどうなっているか、おおよそ見当がつくような気がした。
0 件のコメント:
コメントを投稿