2023年3月3日金曜日

サルマタケ

                      
 冬には冬のキノコがある。探しに行かなくとも出る。夏井川渓谷の隠居へ行くと、まずは下の庭の、切り株をチェックする。今はしぼんで黒ずんでしまったが、真冬にエノキタケが発生した。

 それを採って、水につけてごみを取り除き、味噌汁に入れて食べた。人間の食欲と自然の現象がタイミングよく一致した。ウオッチングが遅れると、キノコはたちまち姿を消す。

 キノコはいつも、思わぬところから現れる。その意外性が一番の魅力なのかもしれない。それがわかるようになったのは、30歳前後に菌類を調べ始めたあとだ。

 小学校の低学年のころ、母親と隣家のおばさんのキノコ狩りに付いて行った。これがキノコ狩りに関する最初の記憶だ。

 雑木林の斜面を下からなめるように上っていく。こちらはまだ「キノコ目」はできていない。ただブラブラと母親の後を追うだけだった。

 大人になってキノコ狩りを始めたとき、この最初の記憶が役に立った。尾根からではなく、下から斜面をなめるようにして上っていく。

 それと、もう一つ。新聞記者になりたてのころ、マンガに登場する「サルマタケ」が脳裏に刻まれた。

昭和34(1959)年春、『週刊少年マガジン』と「週刊少年サンデー」がほぼ時期を同じくして創刊される。私は小学4年生になったばかりだった。以来、マンガとテレビが「団塊の世代」に浸透する。

サルマタケが登場するのは松本零士作「男おいどん」で、同46(1971)年5月9日号から48年8月5日号まで、「週刊少年マガジン」に連載された。

四畳半の下宿に主人公大山昇太が住む。頭はぼさぼさで眼鏡をかけている。いつもランニングシャツとサルマタの下着姿でいる。

サルマタは縦縞のパンツだ。押入にこのパンツがいっぱい入っている。高温多湿になると、パンツの山からキノコ(サルマタケ)が生える。貧乏な昇太がこれを料理して食べる――。

なんともいえないペーソスと諧謔。しかし、サルマタケは現実には存在しない、一種の象徴にすぎないと、そのころは思っていた。

作者の松本零士さんは私よりは10歳ほど年長だ。団塊の世代も、それに先行する世代も、苦学生はおしゃれや清潔さからは程遠い暮らしだった。

私自身、東京での下宿暮らしは最初、三畳間だけだった。下に住む大家のおばさんが、最後は2階の南側を開放してくれた。そんな共通項もあって、ある種の共感から「男おいどん」を愛読した。

その作者が2月13日に亡くなった。いわきの塩屋埼灯台には松本さんが描いた「塩屋埼灯台上空を走る銀河鉄道999」がある。その経緯を伝える死亡記事がいわき民報に載った=写真。

同灯台は令和元(2019)年に点灯から120周年を迎えて記念事業が行われた。その際、関係者が松本さんに依頼すると、快くイラストを提供してくれたという。

松本さんの訃報に接したあと、ネットでサルマタケをチェックしたら、「実話」ともあった。ササクレヒトヨタケ(幼菌は食用になる)だったらしい。が、いくら何でもこれは、という思いを捨てきれない。

0 件のコメント: