いわきの中心市街地(平)から夏井川渓谷へ向かうあたりで、段丘(高崎)と坂(通称・地獄坂)が待ち構える。渓谷ではこの坂が一番きつい。
2月後半の日曜日朝、渓谷の隠居へ向かっていると、地獄坂で自転車を引いている人に出会った。車で追い越しながらルームミラーで確かめると、旧知の元中学校長先生だった。
元校長先生とは晩秋に言葉を交わしたことがある。やはり平地から自転車で渓谷へ駆け上がって来た。そのときの様子を拙ブログから抜粋する。
――ネギの苗床を覆う落ち葉をよけて、腰を伸ばして一休みしていると、そばの道路から声がかかった。
旧知の元校長先生だった。自転車にまたがっている。平窪(平)の自宅から2時間半をかけて駆け上がって来た。なんという健脚! 確か、80歳になるかならないかだ。
初めて言葉を交わしたのは、震災前の平成20(2008)年11月。隠居の隣の錦展望台を発着地に、夏井川渓谷「紅葉ウオーキングフェスタ」が開かれた。週末だけの半住民である私も、地元・牛小川の住民と共に森の案内人を務めた。
元校長先生も森の案内人に加わった。そのころ、福島県の野生動植物保護サポーターを務めていた。今も務めている。
あらためてもらった名刺には、ほかに環境省レッドリスト調査員、福島県植物研究会会員とあった。
元校長先生は背戸峨廊(セドガロ)を中心にフィールドワークを続け、今では渓谷を隅々まで熟知している。
夏井川流域のみならず、鮫川流域では、福島県レッドデータブックで未評価とされているスギランと、絶滅危惧Ⅰ類のクモランを確認した――。
隠居の近くにある石碑についても、拓本を採り、図書館へ行って調べていると言った。碑には「木火土金水」と彫られている。国内では沖縄市にあるだけだった。
地獄坂で追い越してから1時間ほどたったころ、元校長先生がわが隠居に顔を出した。「地獄坂で追い越しましたよ」。今回は川前に着生植物の調査へ行く途中だという。
坂ではさすがに自転車から降りて歩いた。それがよかった、という。ガードレールの先に着生植物があった。「車だとわからないね」と口元を緩めた。
確かに。車でわかるのは路上の生き物の死骸、木々の葉や花、冬の枝……、そんなものだ。車から降りて、門柱のわきにあるアセビをのぞいたら、花が咲いていた=写真。二足歩行だからわかる変化だ。
木々が葉を落としている今は、着生植物の観察にはもってこいだという。ヤドリギらしいものがあったのでデジカメに撮ったが、拡大すると鳥の巣らしい、そういってカメラをのぞいた。
しばらく雑談したあと、元校長先生は川前へ向かった。雨具はちゃんと用意してきたという。
そのとき不意に、自転車のヒルクライム(登り)はきついが、ダウンヒル(下り)は楽ちんだろう、と思った。
JRが一枚かめばいい。磐越東線で自転車ごと小野新町まで行って、そこから夏井川に沿って下って来る。そう思うだけで爽快な気分になった。
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