2023年3月24日金曜日

葉痕は「森の妖精」

                      

  先日、夏井川渓谷の集落で年度末の寄り合いがあった。日曜日に渓谷の隠居で過ごす私も参加した。会議が終わって、ちょっと遅い昼食をとりながら雑談した。

寄り合いではこの雑談が勉強になる。渓谷の自然、人間の暮らし、水力発電所や磐越東線、県道・林道のこと……。いちいちメモを取るわけではないが、自然と結びついたトピックが記憶に残る。

長く造園会社に勤めて、退職とともに独立した住人がいる。渓谷の動植物やキノコのことならこの人に聞け、というくらいに詳しい。

集落では、苗字ではなく名前で呼び合っている。それにならってKさんと呼ぶ。Kさんが長倉小(常磐)の植樹式に招かれて植え方を指導し、少し自然の話もしたという。

自然の話というのが、オニグルミの葉痕のことだった。オニグルミの葉痕はおもしろい。前にブログで取り上げたことがあるので、それを抜粋する。

 ――冬の夏井川渓谷を巡る楽しみの一つに、冬芽と葉痕観察がある。わが隠居の畑は、午前中は表土が凍ったまま。生ごみを埋めるにしても、しばらくはぶらぶらしているしかない。
 で、朝はだいたい森に入ったり、家の前の県道を歩いたりしながら、あれを見たりこれを見たりして過ごす。

幼児が体を動かしながら次々と興味・関心を切り替えていくように、途切れることなく見る対象を変えていく。渓流・樹形・野鳥・雲・キノコ・滝……。それらがアドリブの音符となって歌を構成しているような感覚に包まれる。
 その中でも見飽きないのがオニグルミの葉痕だ=写真。葉痕は一つひとつ違う。枝の尖端に頂芽をいただく葉痕は「かぶとをつけたミツユビナマケモノ」、その下にある葉痕は「モヒカン刈りの面長プロレスラー」、左右に伸びる枝のすぐ上の葉痕は「目覚めたばかりのヒツジ」。
 葉痕だから直径は1センチにも満たない。意識してみなければ、それとは分からない。葉痕の中に散りばめられた維管束痕が哺乳類の目・鼻・口を連想させる。なんとなくとぼけた味が漂う。

当然、オニグルミ以外にもさまざまな形の葉痕がある。フジは困って眉を寄せた肥満顔。アジサイは長い頭巾をかぶった三角顔。ナンテンは三角錐だ。パンダ顔のクズ。下向きの冬芽の上に仏の顔を浮かべたシダレザクラ。サンショウは十字架を背負った殉教者のよう。
 葉が開き、花が咲いているときにはさっぱり識別できなかった木も、冬に葉痕で特定できる場合がある。恋する人の名前を知りたいためにあの手この手を使うのと似る。冬はルーペが欠かせない――。

Kさんが出かけた小学校の行事にも触れておこう。京都の醍醐寺などが連携して東日本大震災の翌年から、「京の杜プロジェクト~桜でつなぐ架け橋~」に取り組んでいる。立命館小学校の児童が苗木を育てている。

その苗木「太閤千代しだれ」が長倉小に届き、3月16日に植樹式が行われた。新聞記事にもなったが、簡略すぎてよくわからなかった。

同小のホームページで経緯を確認した。子どもたちはKさんが紹介した木の枝、つまり葉痕に興味津々だった、ともあった。

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